日本獸醫學雜誌(The Japanese Journal of Veterinary Science)
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TOXASCARIS LEONINA にする実験的研究 : III. 各種動物より得た虫体と虫卵の形態について
大越 伸薄井 万平
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1967 年 29 巻 6 号 p. 329-336_1

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抄録

犬に寄生する Toxascaris 属の回虫は, 最初に RAILLIT and HENRY (1911)によって Toxascaris limbata と記載された. その後, TAYLOR (1924)が犬・猫・ライオンから得た Toxascaris 属の虫体は, いずれも同一種であるとして, その学名を Toxascaris leonina LINSTOW, 1902に統一した. 第1報で報告したごとく, 日本の犬からは, T. leonina の感染がしばしば発見されているが, わが国の猫には, 従来綿密な検索にもかかわらず, 本虫の感染が見られなかった. また著者らは, 犬系の本種の虫卵を猫に人工感染させるように試みたが, 感染は成立しなかった. 1965年に著者らは, ハワイ輸入の猫で T. leonina の寄生を発見し, 始めて猫系の虫体を入手することができた. 犬系と猫科動物の Toxascaris 属回虫の命名については, 前述のように, 歴史的な経緯があるのに鑑み, 今回猫系を入手したのを機会に, 従来から存在した犬系と, 動物園由来のトラ系, チータ系の合計4系について, 成虫および虫卵の形態的な比較と交叉感染試験とを行なった. これらの系統には, 別種に分けるほど著しい形態上の差異を認めなかった. 4系の雌雄各20隻を無作為に選んで, 各部位の計測値を比較した結果, 従来の研究では, なお看過されていたつぎの相違点を明らかにすることができた. 1. 体長と体幅は, 従来の文献と同じく, 犬系が最大であり, 他の猫科3系に対しては, 有意差(1~5%の危険率)が認められた. 2. 食道の長さについては, 食道長/体長の比が, 犬系では最小であって, 他の3系に対して有意差を認めた. すなわち犬系の食道長は, 他系に比して明らかに短い. 3. Vulva の位置については, 体前端から Vulva までの距離と体長との比が, 犬系が最小, 猫系が最大であった. 従って Vulva の位置は, 猫系では体の比較的後方に存在する. 4. Cervical alae の幅は, 猫系では広く, 犬系では狭い. 従って Cervical alae の幅/長さの比については, 両者間に大差が認められた. 5. 虫卵は, 犬系が最大で, トラ系が最小である. 特に犬系では, 長径が大きいことが特徴的である. 以上のごとく, 成虫および虫卵の測定値を比較して, 犬系と猫科3系の T. leonina の間に差があることを指摘した. 猫科3系の中でも, 最近わが国で始めて寄生を発見した猫系で, 犬系との差が特に大であることを認めた. なお, これらの虫卵について行なった犬猫への交叉感染試験の成果は, 次回に報告する.

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