日本獸醫學雜誌(The Japanese Journal of Veterinary Science)
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Toxascaris leonina に関する実験的研究 : IV. 犬・猫の3種回虫 T.leonina,Toxocara canis および Toxocara cati の虫卵の発育について
大越 伸薄井 万平
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1968 年 30 巻 1 号 p. 29-38_1

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抄録

回虫卵の発育に関する従来の報告は,主としてAscarislulnbricoidesおよびToxocaracanisに関するものが多く,Toxascarisleoninaの発育に関するものは少ない.犬猫の T.leo一ninaは,世界各国に分布し,熱帯から寒帯に近い地域にまでも広くおよんでいる.従って本虫卵の温度に対する過応性は,他の回虫卵に比較して広いものと推定される.本編においては,この点を明らかにするため,T.leonina虫卵の発育におよぼす温度の影響について検討を行なった.またこれと比較するために,T.canis虫卵,およびまだ発育状態がほとんど明らかとなっていないT.cati虫卵についても,同様の実験を行なった.また著者らは,第111報において, T.leoninaの大系と猫系の間では,虫体と虫卵の形状に小差があることを述べた.本編においては,虫卯の発育についても,これら両系の比較を行なった.本実験は,自然に近い状態を保つため,雌虫の子宮内虫卵を用いず,濃厚感染した宿主の糞便内に自然排泄された虫卵を集卵し,これをホルマリン加寒天培地上で培養した.その結果は,おおむね次の通りである.1. T.leoninaの大系と猫系の両種虫卵については,37°C培養において差が認められ,前者は発育が抑制される傾向があったのに対して,後者は正常に発育した. 2. T.leonina虫卵の発育の上限は,37°C付近と推定された.発育の適温は,室温ないし30°Cであって,93%以上の虫卵が,5~10日で感染虫卵まで発育した.6~86C培養では,初期分裂が行なわれ,8~15゜C培養では,40日を要して完熟卵となった.未発育卵を-156Cに40日間保った後,適温で培養すれば,大略正常な発育をすることを認めた.また未発育虫卵と発育虫卵に日光を数日照射した結果,発育の停止と感染力の低下を認めた.3. T.canis虫卵は,37°C培養では発育完了せず,30°Cでは11日,25°Cでは14日で完熟卵となった.5~15°Cの冬季室内培養では,3カ月間観察を続けたが,発育はmorulastageにとどまっていた,4. T,cati虫卵も,37°C培養では発育せず,また308Cでは,11日で完熟卵となるものもあったが,変性卵の出現が多かった.25゜Cでは161B,室温では21日で完熱卵になった.5.3種回虫の完熱卵を408Cに保った場合には,いずれも3日以内に死滅した. また-15°Cに保った場合には,Toxocara属の虫卵は5日で死滅したが,T.leonina虫卵は40日後も生存していた.以上の成績を総括して,T.leoninaの虫卵の温度に対する適応性は, T.canisおよびT.catiに比較して,はるかに広いことが明らかになった.

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