産業衛生学雑誌
Online ISSN : 1349-533X
Print ISSN : 1341-0725
ISSN-L : 1341-0725
原著
長時間の計算作業による精神疲労が事象関連電位P300に及ぼす影響
岡村 法宜
著者情報
ジャーナル フリー

2007 年 49 巻 5 号 p. 203-208

詳細
抄録

長時間の計算作業による精神疲労が事象関連電位P300に及ぼす影響:岡村法宜.愛媛県立医療技術大学保健科学部臨床検査学科―オドボール課題によって誘発する事象関連電位P300の潜時や振幅は被験者の選択的注意力を反映する.本研究の目的は,P300の測定が精神疲労の評価に有効かを試験することである.Fz,CzおよびPzより導出した聴覚事象関連電位に加え,ヒトの疲労を反映すると考えられている血中の乳酸値,コルチゾール値およびオドボール課題の反応時間を測定した.精神疲労を惹起させるために,12人の健康な男女大学生(男性8人,女性4人,年齢19.5±0.5歳(平均±標準偏差))に精神作業として約2時間の連続加算作業を内田クレペリン試験紙を使用して実施させた.Fz,CzおよびPzより導出されたP300の潜時は,作業前では,それぞれ295.6±8.7 msec,298.8±8.5 msecおよび297.5±7.2 msec,作業後では,それぞれ312.6±11.2 msec,314.6±10.1 msecおよび315.8±8.7 msecであった.作業後の潜時の延長は被験者全員に,全導出部位で認められた(p<0.01).一方,計算作業を課さない対照実験ではP300の潜時延長は認められなかった.また,P300の振幅は,計算作業を課した実験,対照実験ともに全ての記録部位において有意差は認められなかった.さらに,血中乳酸値,コルチゾール値およびオドボール課題の反応時間は作業前後で変化を示さなかった.P300の潜時の延長は精神疲労に伴う脳機能低下によって引き起こされた可能性が考えられた.このことから,作業前後にP300を測定していれば,作業後の潜時延長から精神疲労を検出できる可能性が示唆された.
(産衛誌2007; 49: 203-208)

著者関連情報
© 2007 公益社団法人 日本産業衛生学会
次の記事
feedback
Top