2021 年 67 巻 3 号 p. 117-128
スギの成木を対象に,早材幅および晩材幅クロノロジーと年輪幅から推定した幹バイオマス増加量について,気候要素および光合成や呼吸による生態系の炭素収支とそれぞれ単相関分析を行った。早材幅と幹バイオマス増加量の間では有意な正の相関が認められた。前年の春~夏,当年の冬~春の気温と早材幅の間に有意な正の相関が認められた。同様の期間の総一次生産量(GPP),生態系呼吸量(RE)と早材幅の間にも有意な正の相関が認められた。気温とGPP,REの間について,冬~春にそれぞれ有意な正の相関が認められた。これらの関係から,前年の成長期の気温が葉の生産量を変動させ翌年の光合成量に影響を与える可能性があり,さらに当年の成長期前の気温が光合成量に影響を与え貯蔵光合成産物が変動することにより,早材幅が変動することが示唆された。これらの要因により早材幅が変動した結果,幹バイオマス量も変動することが示唆された。