2021 年 57 巻 4 号 p. 91-102
モンゴル国の首都ウランバートルは、皮革産業が盛んであり、重金属クロム含有廃水が問題となっていたことから、2016年に重金属クロム含有廃水の前処理施設を導入した。この導入による都市部周辺にあるトゥール川の水質への影響と潜在的な水質汚染の現状の検証を本研究の目的として、都市河川の水質の実態を明らかにした。トゥール川の上流から下流にかけて10箇所のモニタリングポイントの長期調査(2014年~2018年)を実施した。この結果、ウランバートルの廃水処理施設からの処理水の放流地点より上流の地点では、無機窒素、リン、有機物(生物化学的酸素要求量、化学的酸素要求量)の濃度が極めて低いことを明らかにした。処理水の放流地点より下流の地点では、重金属クロムを含む廃水の前処理施設の導入後にクロム濃度が低下しており、前処理施設の効果が認められた。しかし下流において、冬期の河川凍結に由来する流量の減少に加えて、廃水処理施設の処理放流水のために有機物、アンモニア態窒素、リン酸態リンの濃度が急激に上昇していることを明らかにした。したがって、寒冷地の廃水処理施設の適切な運用および新たな処理方法が求められる。また、適切な環境排水基準や安全基準の策定が必要であると考えられた。