広島湾北部海域で毎年夏季に発生する貧酸素水塊の形成と規模の経年変動には複数の要因が関与しているため,海水中および底泥中の物質の動的なプロセスを取り扱える浮遊系-底生系カップリング・モデルを構築し,貧酸素水塊形成メカニズムについて詳細な解析を行った。その結果,1)底泥還元層で生成されて海水中へ溶出するODU(有機物分解時に生成される還元物質の総和)の酸化による酸素消費は貧酸素水塊形成の重要な要因の一つであるが,その経年変動は小さく,貧酸素水塊の規模の経年変動を左右する要因にはならないこと,2)貧酸素水塊の規模は,内部生産による有機物の沈降・分解による酸素消費量によって大きく左右されること,3)河川水流入量が大きい年は,エスチュアリー循環流が発達することで,外部から北部海域下層に供給される酸素フラックスが増大するため,流入負荷が大きいにも関わらず貧酸素水塊の発達が抑制されることなどが明らかとなった。