日本助産学会誌
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原著
出産前後の里帰りにおける実母の援助と母子関係・母性性の発達
小林 由希子
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2010 年 24 巻 1 号 p. 28-39

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抄録

目 的
 本研究は,日本の文化的な習慣として現在も多くの女性が行っている出産前後の里帰りについて,子育て支援および母子関係と母性性の発達の視点から捉え,実際に,産前産後に里帰りを行った女性の主観的経験の「語り」と,里帰り時の実母による援助の分析を通して,里帰りが産後の子育て支援に果たしている役割や機能,および今後の課題について検討することを目的とする。
対象と方法
 出産前後に里帰りを経験した初産婦10名,経産婦5名の15名について,半構成的面接法の手法を用い,里帰りについて語られた主観的経験の内容を,具体的な実家の援助や状況と併せてデータとして質的に検討した。
結 果
 現代の里帰りは,従来の里帰り分娩に加えて,産後の実家里帰りや実母の出張援助の形態もあり,その形態は変化していた。15名中10名は「里帰りは当然のこと」と捉えていた。里帰りの最大の機能は,(1)産後の身体的休養,(2)育児不安の解消,そして(3)経験者である自分の母親を師匠とした見習いによる育児を学ぶ,であった。一方,問題点として,プライバシーが保てない,実母の過干渉,里帰り後に実母の援助が途切れることからくる不安があった。また,過去の親子関係の葛藤を想起した者が2名あった。しかし,その葛藤は時間と経験の語りを通して解決され,過去の傷を乗り越え新たな関係構築へと発展した。また,全員がこの里帰りの経験を通して,親子の更なる理解を得ることができた。但し,里帰りの実現は,ほどほどに良い親子関係や居住条件などが前提条件であり,何れの条件に欠陥や不十分さがある場合,適切な個別援助が必要と思われた。
結 論
 里帰りは,産後の女性の産褥復古支援および育児不安の解消と子育ての態度の形成の場,そして,母子関係の発達の場であった。里帰りは,子育ての伝統と知恵を伝えてきた数千年にも及ぶ人間社会の子育ての場(子育てのニッチ)であった地域社会や拡大家族の崩壊した現代日本社会において,残された最も重要な子育て支援資源である。但し,それが機能するためには,事前の親子間の関係の調整や,里帰り後の心理的援助など,専門家による介入の検討は課題である。

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© 2010 日本助産学会
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