(目的) 抗腫瘍剤であるシスプラチン (以下CDDP) は, 腎毒性, 聴器毒性, 胃腸障害, 血液毒性などの副作用を有している. 一方, Ginkgo biloba extract (以下GBE) はイチョウ葉からの抽出物であり, 種々の活性成分を含む混合物である. GBEは, フリーラジカルスカベンジャーであり, フリーラジカルの発生が関与していると考えられるCDDPの毒性に対して軽減効果を有することが期待される. 以上のことから, ラットを用いてCDDPの聴器障害および腎障害に対するGBEの軽減効果の有無, さらにCDDPの抗腫瘍効果に対するGBEの影響について検討した.
(方法) Fisher系雄ラットを以下の3群に分け使用した. I群CDDP単独群, II群CDDP・GBE併用群, III群コントロール群. 実験1では蝸牛神経複合活動電位 (cochlear nerve compound action potential, 以下CAP) 閾値を測定した後, 蝸牛有毛細胞の状態を走査型電子顕微鏡を用いて観察した. 実験2では血清尿素窒素 (以下BUN), クレアチニンの測定, 腎を摘出して光学顕微鏡を用いて観察した. 実験3では扁平上皮癌担癌ラットを用いて腫瘍体積の増大率を算出した.
(結果) II群のCAP閾値上昇および外有毛細胞の障害程度は, I群に比し有意に軽度であった. II群での血清BUN, クレアチニン値は, I群と比較し有意に低値を示した. 腎の病理組織学的所見ではII群の障害の程度は, I群に比し軽度であった. 腫瘍増大率はI・II群間に有意差は認められなかった.
(結語) 以上の結果から, GBEはCDDPの聴器毒性および腎毒性を軽減することが示された. さらにGBEの併用がCDDPの抗腫瘍効果には影響を及ぼさないことが明らかにされた. このことからCDDPの投与に際してGBEを併用することは, CDDPの聴器毒性軽減の点から有益であり, 今後その臨床応用が期待される.