日本森林学会誌
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カシノナガキクイムシとその共生菌が関与するブナ科樹木の萎凋枯死
被害発生要因の解明を目指して
小林 正秀上田 明良
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2005 年 87 巻 5 号 p. 435-450

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抄録

カシノナガキクイムシの穿入を受けたブナ科樹木が枯死する被害が各地で拡大している。本被害に関する知見を整理し,被害発生要因について論じた。枯死木から優占的に分離されるRaffaelea quercivoraが病原菌であり,カシノナガキクイムシが病原菌のベクターである。カシノナガキクイムシの穿入を受けた樹木が枯死するのは,マスアタックによって樹体内に大量に持ち込まれた病原菌が,カシノナガキクイムシの孔道構築に伴って辺材部に蔓延し,通水機能を失った変色域が拡大するためである。未交尾雄が発散する集合フェロモンによって生じるマスアタックは,カシノナガキクイムシの個体数密度が高い場合に生じやすい。カシノナガキクイムシは,繁殖容積が大きく含水率が低下しにくい大径木や繁殖を阻害する樹液流出量が少ない倒木を好み,このような好適な寄主の存在が個体数密度を上昇させている。被害実態調査の結果,大径木が多い場所で,風倒木や伐倒木の発生後に最初の被害が発生した事例が多数確認されている。これらのことから,薪炭林の放置によって大径木が広範囲で増加しており,このような状況下で風倒木や伐倒木を繁殖源として個体数密度が急上昇したカシノナガキクイムシが生立木に穿入することで被害が発生していることが示唆された。

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