日本透析医学会雑誌
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症例報告
腹膜透析施行中に,腹腔内圧上昇に伴うと思われる合併症を発症した多発性嚢胞腎(ADPKD)患者3例の検討
目黒 浩昭森 弘司福島 鼎草野 英二
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2010 年 43 巻 7 号 p. 587-594

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抄録

当院での腹膜透析施行例において,多発性嚢胞腎(以下ADPKD)患者3例中の1例は左陰嚢水腫と右横隔膜交通症,1例はカテーテル周囲のリークと右横隔膜交通症,1例は臍ヘルニアと同部位からの感染によると思われる腹膜炎を発症し腹膜透析継続を断念した.ADPKD患者に対する腹膜透析に関しては賛否両論があるが,3例のADPKD患者においては,残存機能の保持が期待でき,食事制限の少ない,QOLの維持が可能で患者満足度の高い腹膜透析が可能と判断し実施した.結果的には上述の合併症を発症したが,これら腹腔内圧上昇に伴うと思われる合併症に着目して,症例の検討を通して適否の基準となりうるような指標がないかを模索した.そこで,施行が容易で客観性の高いCTが適否診断の方法になりうると考え,当院で施行した他の腹膜透析患者6例も含め,腹腔内容積と腎の容積をCT画像から算出し比較した.3症例に共通した特徴として巨大化した嚢胞化腎を有しCTによる腹腔内容積に対する腎の容積比率は,3症例とも対照群(他疾患による腹膜透析施行例)に比して著しく高い値を示した.さらにADPKD患者は潜在的に,コラーゲン代謝の異常から,膜構造や腹壁構造に脆弱性を有するとされ,ADPKD以外の腹膜透析患者群に比較して,腹圧上昇に基づく合併症が起こりやすいことは予測されうるものであった.未だに,巨大な腎を有するADPKD患者における,腹膜透析の適否に関する客観的指標は示されていない.CTによる腹腔内容積に対する腎の容積比率は,腹腔内圧上昇に伴う合併症発症予測の観点から,ADPKDの患者への腹膜透析導入の是非および,導入する場合の腹膜透析の様式等を考える上での客観的指標になりうると思われる.しかし少数例の検討であり今後の症例の蓄積と検討を要する.特にADPKD患者間での比較調査が必要と思われる.

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© 2010 一般社団法人 日本透析医学会
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