地学雑誌
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論説
フィリピン・ルソン島中部パンパンガ川流域の地形分類と洪水特性
南雲 直子澤野 久弥
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2016 年 125 巻 5 号 p. 699-716

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抄録

 フィリピン共和国ルソン島で第二の流域面積をもつパンパンガ川流域は雨季の降雨や台風によって深刻な洪水の影響を毎年のように受けており,洪水被害の軽減が重要な課題である。そこで本研究では,地形や土地利用,過去の浸水履歴等に着目して,パンパンガ川流域の洪水特性や地域の洪水脆弱性を明らかにすることを目指した。地形分類図によれば,流域の地形は大きく山地・丘陵,火山,平野に分類され,山地・丘陵は山地,丘陵に,火山は火山斜面,火山山麓緩斜面,火山扇状地に,そして沖積平野は扇状地,段丘,後背湿地,湿地,三角州,谷底低地,自然堤防,メアンダースクロール,旧河道に階層区分された。平野北部のパンパンガ川西側では,フィリピン断層の活動に起因すると考えられる北部山地からの土砂供給によって扇状地と台地が南西方向によく発達する一方,東側では西方向へと台地が発達する。また,平野は山地,丘陵,火山に囲まれており,アラヤット付近で幅20 km程度まで狭くなるため,上流からの洪水が停滞し,サンアントニオ湿地とカンダバ湿地を形成する。そして平野南部では,非常に緩い河川勾配と地盤沈下,潮汐の作用による海水の侵入によって,カンダバ湿地を経て南下してきた洪水が排水されにくく,洪水は深刻化する傾向にある。このような地理的条件から想定される洪水様式をもとに,平野部をzone Iからzone IVに区分した。上流側のパンパンガ川西側及び東側にそれぞれ位置するzone Iとzone IIは比較的排水がはやい。一方,カンダバ湿地付近より南部に位置する洪水脆弱地域(zone III,zone IV)は,農漁業生産において周期的な洪水による恩恵を受けていると同時に,家屋の浸水被害も大きい。しかし,住民は2011年に発生した近年最大の洪水時であっても自宅から避難しない等,洪水を恐れず,共存しながら生活を営んでいる。今後も平野部では人口増が見込まれることから,行政主導の事前の洪水対策を進めていくと同時に,効果的な対策を進めながら洪水に適応した暮らしが維持できるよう,住民それぞれが地域の地理的環境や洪水脆弱性を理解しておく必要がある。

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